第66回 「間」の素敵さ
2004年8月に女流能楽師の重要無形文化財が始めて誕生した。その中のお一人でもある女流能楽師の先駆けといわれる足立禮子先生は本当に美しい。彼女は79歳。しかし現役で能をし、指導をしている。
この方が、『能オセロー』という新作能の後見をしたときに、私は舞台で拝見した。後見というのは後ろに座っている人である。とても重要な役割をはたす人なのだが、素人目からすれば、「ただ座っているだけ」の人にすぎない。
たまに後かたづけをしたり、主人公であるシテの装束を直したりするのだが、そのころ、私はほとんど能もみたことがない状態でいたから、後見がそのような大切な役柄の人とは知らなかった。
ところが『能オセロー』の舞台を見たときに、後ろに座っている足立先生に釘付けになってしまったのである。ただ座っているだけだった。しかし、その存在がなんと美しいことかと……。能をみるよりも、足立先生をみていたといったほうがいいだろう。
以来、足立先生のファンになり、仕舞いと謡を習うようになった。そして大人の女という言葉を超えてしまうほどのすばらしさを先生がもっている雰囲気というか波動というものに、いつも感動している。
なぜか、というと、先生のそばにいるときに感じる静寂さというのだろうか、「気」が落ち着いているのである。話しているときでも身体が安定し、気が落ち着いて揺るがないのである。
能には間があり、仕舞いや謡を勉強していても、最初はこの「間」が全くわからないで、困ったものだが、その「間」が生活の中にもあるというのだろうか、座っているだけで、ぴたりと決まるのだ。
また瞑想呼吸法で有名な原久子先生という先生がいらっしゃるのだが、この方もおなじように静寂な気がある。原先生はカウンセリングなどもなさる方だから「聞く力」のプロである。
聞く力は、相手の思いや気をきちんとすくい取ってくれる慈愛がある。だから大人の女とは、もしかしたら「聞くことのできる人」といってもよいのかもしれない。待つことのできる人なのである。
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