第54回 川に落ちて危機一髪
人はとらえかたがこんなに違うと知った事件がある。両親の話で恐縮だが、父はとても心配性、母はとても楽天的な人だ。緻密で慎重な父と、おおらかでこだわらない母は、好対照の存在だった。
ありがたいことに父は私のことも心配しすぎるくらいで、例えば夜9時頃まで四谷の実家にいて、代々木の家に戻ろうとするときに、「危ない! 危ないから送っていってやれ」と母に言う。私はもう人生半ばになったのだし、むしろ70半ばの母を一人で帰すほうがよっぽど心配だ。とはいえこうしていつまでも心配してくれるという人がいるのはありがたいものである。
あるとき、和歌山からさらに地方の人里離れたところで取材があった。取材が終わり、暗くなった道を一人、駅を目指して歩いていた。街灯がぽつんと立っているだけで周囲は真っ暗。駅までは1本道だから迷うわけはないといわれていたが、雨が降ってきて心細い。都会育ちには異様な闇だ。食事をしたお店で借りたビニール傘を差しながら、不安な気持ちで暗い道を半ば小走りして歩いていた。
と、前方からヘッドライトに照らされ、「あ、車が!」と思って道の端によけようとした瞬間だった。
「!」
一瞬何が起きたのか全くわからなかった。
気がついたとき、水の流れの中にいて、靴は流され、スカートも脱げそうな状態だった。流される寸前のハンドバッグをどうにかつかみ、自分がいったいどうしたのか、周辺を見回した。
さて、私はどうなったのか?
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