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第13回 聞き上手は教育上手

 

 もう20年くらい前の話になるが、アルバイトで塾の先生をしていたことがある。どちらかといえば、進学塾というよりも、落ちこぼれという言い方は失礼だが、学校の教育についていけない子供たちの補講のための塾のようなところだった。だから勉強をさせることが難しかった。

 なかでも一人、いたずらばかりして手に負えない少年がいた。授業中に私語はする、歩き回る、宿題はしてこない。塾の電話をいたずらして警察や救急車を呼ぼうとしたり、とにかく世話が焼けて困った。

みんなに向かって話をすると私語をしたがるので、その子だけに向かって話をしてあげると、きちんと聞く。時に叱ると、何となくうれしそうにしている。叱られるという行為で、つながりを感じる。人は無視されるのが一番つらい。だから叱られることでも、人と接触できれば、それだけでうれしく感じる時もあるのだろう。無視されるよりはいい。

たぶん、「叱る」というのは、その子にとっても、ひとつのコミュニケーションだったのかも知れない。またその子は自分のためを思って叱ってくれていると思ったのかも知れない。叱っても塾にはきちんとくるし、だんだん宿題もするようになってきた。そして帰るときなど、待っていてくれて、一緒に駅まで帰る日もあった。そのようにして話をしていると、彼の場合は、ご両親がともに働き、超多忙状態らしく、かまってもらえる大人の存在がほしいのがわかってきた。
聞くチカラ 子供
 授業中にうるさくするのも、わざと女の子をいじめたりして、注目を浴びるのも、どうやら、注目してもらいたい。かまってもらいたい心の現れのようすだった。なんとなくこの子がかわいくなり、よく話をするようになった。すると宿題もきちんとするし、ほかの子供が騒いでいると、その子たちをたしなめてくれるようにさえなった。

 しばらくして私はその塾を辞め、ほかの仕事をするようになったのだが、やめるとき、その子は、駅までついてきて、なけなしのお小遣いで買ってくれたのだろう。ピンク色のボールペンを少し照れながらプレゼントしてくれた。本当にうれしかった。
 このとき、人の話を聞くことがどんなに大切か。そして人はどんなに自分の話を聞いてもらいたがっている存在かと言うことを知ったのだ。
 自分の存在を承認されること。これはとても大切なことである。自分がとても不安定だったり、つらいと感じたりしたときは、たいてい自分を承認してくれる存在がない。少なくとも自分自身が自分を承認してあげればいいのだが、それすらもできなくなっていることがある。
こうなると、誰か相手を探して承認してもらいたくてたまらない。しかしよいところ探しができると、自分のよいところを探せるから、人に承認されなくても自信をもてるようになる。あれから20年以上の時が経ち、あの子も今は、いいお父さんになっているだろう。



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